特任研究員 岩城典子
これまで脳血管・腎臓内科、救急外来を経験したのち、非がん患者も対象にした未認可の緩和ケア病棟に設立から10年間勤務しました。48床の病床数でしたが、年間約250名が亡くなられ、9割が65歳以上の高齢者でした。痛みや呼吸困難などのつらい身体症状も早急に緩和すべき重要な苦痛ですが、特に高齢者の場合は自分の意思が尊重されないことに起因する苦痛、意思決定に起因する苦痛への対応が特に重要だと感じました。また、こうした高齢者は疾患による苦痛だけでなく、日常生活動作の低下、認知機能の低下、社会的問題など、多くの諸問題が苦痛をもたらしていると考えられます。そのため苦痛を同定し、緩和し、生命の質を向上させるアプローチである緩和ケアが必然的に重要であり、そうした緩和ケアを行うには、単に終末期だけを看るのではなく、エンド・オブ・ライフケア(終生期)として看ていく必要があると思いました。
また、エンド・オブ・ライフケアはケアする側だけでなく、ケアを受ける側もその意味と重要性を理解する必要があると思います。在宅での緩和ケアは病院よりもさらに患者と家族が中心となり、意思が尊重されたケアであると感じます。しかし、その経過のなかで、患者と家族が終末期にあらわれる症状だけに焦点があたってしまうことが多く、そうすると元来、患者と家族が思っていた「生き方」とにズレが生じることがあります。このズレは前述した諸問題の「苦痛」となり、ケアの障害や遺族に「苦痛」として残っていきます。このようなズレを無くすためにも、患者と家族が疾患や症状に囚われないように、ケアを受ける側もエンド・オブ・ライフケアを理解していく必要があると思いました。特に看護師は患者と家族に近い存在であり、常に先導的な立場です。患者と家族とともにエンド・オブ・ライフケアを理解し考えていくには、まず看護師である私自身がエンド・オブ・ライフケアを深く理解していく必要があると感じました。この講座で学んだことを医療現場のみならず、地域住民も対象にした地域全体のリソース役として活かし、在宅医療の底上げもはかっていきたいと思っています。