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<2006年6月>
今回は浮ヶ谷幸代先生(文化人類学)のご論文を紹介します。
「病気の原因をめぐる『いかに』と『なぜ』:自己と他者の人類学」『日本新生児看護学会』Vol.11 No.2,2005,pp.2-8

<要旨>
人は、病気になったとき、それが突然の発症であったり不治の病いとわかったとき、「なぜ私が」と問いかける。生物医学や予防医学には「いかに病気になったのか」の説明はあるが、「なぜ私が病気になったのか」の説明は持ち合わせてはいない。「いかに」の説明は、生物医学や予防医学の説明だけではなく社会的価値観によっても説明される。ところが、人は「いかに」の説明だけでは満足せずに、「なぜ」と問い、その答えを自分の性格や過去のエピソードに求めようとする。その答えに納得する人もいれば納得できない人もいる。答えがわからない人や答えを求めることをやめる人もいる。この自己言及の機制は、アイデンティティや再帰性、自己の陶冶という近代の概念によって支えられ、生活習慣病の自己責任化という機制と結びついている。自己言及や自己責任化の機制に現れる「閉じた自己」は、「なぜ」の答えに納得できずに自己否定する自己像と重なっている。これに対して、病気と向き合うプロセスに現れる自己像は、他者を介し自己と対話する「開かれた自己」として捉えられる。最後に、現代社会の医療をめぐる現象を文化人類学的に読み解くための研究視座を提示する。
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