「看護と科学」 

看護学部14期生 西村多寿子

私は看護学部12期生として入学し、14期生と一緒に卒業しました。「ロータリー財団の奨学金を得てスウェーデンに留学」といえば世間体は良いかもしれませんが、実際は、3年次からの専門課程で亥鼻キャンパスにこもりたくないという後ろ向きな理由が根底にありました。

看護学部は、1年次から西千葉での教養の講義に加え、週1回亥鼻で専門の講義がありましたが、私は亥鼻の雰囲気になじめませんでした。看護系と医学系の教員が対立し、それぞれ「看護とは何かを考えよ」「科学者となれ」というメッセージを発しているように感じたのです。それは今から考えれば、文系と理系の対立にも似たところがありました。2年間の休学は、先生達の言葉を正面から受け止めることを回避するための行動だったのかもしれません。

それから20年以上たち、現在の医療翻訳者やライターとしての仕事も、臨床現場にいる方からみれば、看護から距離を置いているように見えるでしょう。しかし、私のこれまでの歩みは、先生達の言葉に込められた真意を理解し、自分なりに消化・融合する試みであり、看護と科学の関係を独自に探求してきた結果のようにも思えます。

学生時代の思い出といえば、大学4年のときに病院実習と就職活動が重なり、午前中はナースのユニフォームで患者さんのケア、午後はスーツに着替えて都内に出かけ、外資系企業の面接試験を受けたことです。バブル期の当時は、国立大卒と留学経験だけで売り込めたので、米国系大手証券会社からも内定をもらいましたが、大学で学んだことを少しは生かせるだろうと考えて、英国系製薬会社を選びました。

その後、東京大学大学院進学、看護師・保健師の実務経験を経て、最近は、海外の一流誌に掲載された医学論文の紹介記事を書いたり、医療関係者のインタビュー記事を書いたり、医学英語の指導もしています。

8月31日には、メディカルライター協会に講師として招かれ「医学論文によくみられる英語表現」というタイトルで講義をしました。教育重視の医療系学部の教員にとっても、英語での論文作成は必須となってくるでしょう。教員自ら積極的に英語を学習することも大切でしょうが、ライターを組織的に養成・雇用してチームで論文を作成したほうが、着実に実績をあげられるのではないかと思います。研究方法の概要と論文構成が理解できれば、英訳が得意な文系出身者でも良質の仕事ができるはずです。

第2回校友会報にて、海堂尊氏が「成果を誇らない千葉大の態度に、奥ゆかしさと同時に歯がゆさも感じていた」と述べていましたが、論文を読む機会の多い私も大いにうなずけるところがあります。しかし、総合大学であることを生かして、成果を着実に世に出していく仕組みをつくることは、千葉大学の「底力宣言」と矛盾しないと思います。

最後に、看護学の可能性について。私は前述の仕事のほかに、理工系研究者への研究協力も行ってきました。東京大学大学院・情報理工学系研究科の峯松信明先生(音声工学)や先端研の西成活裕先生(渋滞学)とも関わってきましたが、私は英語屋として彼らに向き合ったのではなく、看護師として看護と科学の関係を考えながら議論してきたように思います。文系・理系科目を幅広く履修し、分野横断的な側面を持つ看護学から出発したからこそ、最先端の研究者の思考についていくことができるし、時には彼らの思考を前進させるポテンシャルを持っていると感じます。

東日本大震災の発生時、被災地の看護師・保健師はその職務を命がけで遂行し、その後、他の都道府県からも多くの看護職が被災地で活動しました。医療現場・災害現場で主体的に考え行動できる人材を養成するにあたり看護学部の果たす役割は大きいと考えます。実社会で活躍する卒業生を支えるためにも、千葉大学のさらなる挑戦と飛躍を期待しています。


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