エンド・オブ・ライフケア看護学への千葉大学の取組

事業概要

事業概要報告

1.事業の目的と計画

千葉大学 エンド・オブ・ライフケア看護学講座事業全体計画

日本財団「領域横断的エンド・オブ・ライフケア看護学の構築」事業における5年間の事業計画は以下のとおりである。

(1)事業目的

【経緯】

これまで終末期看護学は、がん看護とくにホスピスケアが中心に行われてきたが、近年化学療法や集学的治療が劇的に変化をとげており、がん医療に対する人々の意識の変化も大きく、これまで以上に幅広い知識と新たな生と死の捉え方が求められている。

近年、現実のケアの場では高齢者の増加、地域で看取ることを希望する人々のニーズも増加し、高齢者のケアや在宅で終末期を看取ることについての知識も求められてきている。2000年にカナダ政府により“a guide to end-of-life care for seniors”が発行され、成人医療と老人医療の違いを前提に、高齢者のニーズに合った独自の晩年期ケアガイドの必要性が提示された。この“a guide to end-of-life care for seniors”の発行は世界各国に波紋を広げ、欧米諸国では、終生期・晩年期ケア(end-of-life care)にはがん患者やAIDS 患者のターミナル期以外に高齢者の晩年期ケアが位置づけられるようになった。しかし、わが国においては高齢者の晩年期ケアについて個々の研究的取り組みはあっても、未だ体系化されているとはいいがたい。また看護学の領域では終末期看護の教育は、主としてがん看護の関連科目として位置づけられてきた。人の死は、文化的・社会的要素も含むことから、高齢社会にある日本において、この領域の教育・研究を推進していく意義は大きい。

千葉大学では、2007年度から3年間に渡り、日本財団の助成により普遍教育教養展開科目「いのちを考える-医療の原点をみつめて」を開講してきた。この科目開講は、医療系の学問を専攻する学生にとって、医療者となる自身の役割や今後の課題を明確にし,学習のモチベーションの向上をもたらすことに貢献できた。一方、医療以外の学問を専攻する学生には、人間としての在り方の洞察、緩和ケア・終末期ケアに関する正しい知識の獲得と終末期にある人々への理解の深まりという学びをもたらすこととなった。

このような成果を礎に、専門教育において更に強化・発展させることをねらいとし、2010年度10月より、普遍教育のみならず、看護学士課程、看護学博士前期課程における教育の実施と教育方法の開発、研究の推進のために再び日本財団より助成を受け、本事業が開始されることとなった。

【目的】

領域横断的エンド・オブ・ライフケア看護学とは、がん、慢性疾患や難病の終末像等の多様な臨床現場における生と死について考え、子どもから高齢者に至るあらゆる発達段階にある人の人生の終生期・晩年期を包括的にとらえた看護のあり方を追究する学問を意味していると考える。
本事業の目的は、

①普遍教育および看護基礎教育課程において生と死について深く学び、死生観を身につけた看護職者の人材育成
②エンド・オブ・ライフケア看護学の確立と発信である。

2010年10月からの半年間を準備期間として、2011年度より5カ年計画で、上記の目的達成のために5つの事業を柱に展開する。

  1. エンド・オブ・ライフケアに関する情報収集・蓄積
  2. 地域社会に向けた啓発普及のための発信と相互交流の推進
  3. エンド・オブ・ライフケア看護学研究の推進
  4. 看護学基礎教育におけるエンド・オブ・ライフケア看護学教育の実施と評価
  5. 大学院教育におけるエンド・オブ・ライフケア看護学の実践・教育・研究の統合

これらの事業を柱に最終年度には、日本型エンド・オブ・ライフケア看護学の確立の礎として、一般書において広く成果を公表し多くの人々に自分らしい生き方を考える機会を提供する。また、看護学基礎教育に活用できる専門書の出版を行い、看護学教育に資する成果を集積する。このように本事業成果を広く地域社会に発信することによって、本講座が多様な人々、多様な関連職種や組織とのネットワークの構築を推進する拠点となることを目指す。

2.事業計画と成果目標

本事業の5つの柱について、その事業目的、内容、期間、成果の順に説明する。

1.エンド・オブ・ライフケアに関する情報収集・蓄積

【目的】

国内外にわたり、エンド・オブ・ライフケアに関する教育、実践、研究に関する情報を系統的に収集・集積し、活用可能な実践知データベースを構築する。

【事業内容】および【事業実施期間】

1)2011年~2015年の各年で実施
国内外の緩和ケア視察研修・専門関連学会参加

2)2011年~2012年の2年間
エンド・オブ・ライフケアに関連する国内外の多様な専門機関、市民団体における活動視察し、系統的情報の集積を図る

3)2013年~2015
専門サイトとしてのHP のコンテンツ、HP 検索システムのデータベースの作成

【事業成果】

専門家やサービス利用者が活用可能な日本型エンド・オブ・ライフケア看護学教育、実践、研究の蓄積を世界に発信する情報のデータベース構築

2.地域社会に向けた啓発普及のための発信と相互交流の推進

【目的】

地域社会の人々がエンド・オブ・ライフケアに関する考えを意識化し、専門家と共に医療の在り方を考える機会を提供する。

【事業内容】および【事業実施期間】

1)2010年度 開講記念公演の開催 3月
ホームページの作成、ロゴマークの募集・作成
関係機関への講座開講の広報
新聞等、メディアでの活動発信

2)2011年度 すべての活動を相互交流型ホームページで発信・交流

3)2012年度 上記、関係機関との発信を継続しさらに以下の活動を加える。
学内外、地域住民の参加者を募った勉強会等の開催
一般書の刊行
ニュースレターの発行
専門学会・研究会での発表

4)2013年度~2015年度
上記、活動を継続しつつ、HP のリニューアル国際・国内シンポジウム開催

【事業成果】

1)「19歳の君へ」に続く、一般書の刊行

2)1.2 の事業を統合させたHP リニューアルによる世界に向けた日本型エンド・オブ・ライフケアの相互交流型情報活用システムの構築

3.エンド・オブ・ライフケア看護学研究の推進

【目的】

領域横断的なエンド・オブ・ライフケア看護学に関する理論、実践、研究成果等を統合し、日本型エンド・オブ・ライフケア看護学の理論的基盤を構築する。

【事業内容】および【事業実施期間】

1)2010年~2011年 領域横断的研究の企画推進
領域横断的な研究の理論的枠組みを検討し、5 か年にわたる段階的な研究課題を明確にする。(段階的な計画は別紙参照)

2)2011年~2015年 領域横断的研究の実施
各年度、領域別のエンド・オブ・ライフケア看護学に関する実践知の集積とその効果検証のための研究を実施する。

3)2011年~2015年 学術的成果の発信
①各年度で当該領域の専門学会での発表及び論文投稿を行う。
②関連雑誌及び一般誌の連載等、著書の出版(訳本も含む)

【事業成果】

1)各年度、エンド・オブ・ライフケア研究の発展と成果公表に関する報告書

2)最終年度、終了後、日本版エンド・オブ・ライフケア看護学の理論的基盤に関する専門書籍の発刊

4.看護学基礎教育におけるエンド・オブ・ライフケア看護学教育の実施と評価

【目的】

エンド・オブ・ライフケア看護学に関する、以下の2 科目を開講し、エンド・オブ・ライフケア看護学の教育内容と教育方法の確立を目指す。

【事業内容】

1)基礎教育課程における授業の実施
(1)普遍教育課程
科目名:「生きるを考える」(全学部1~2年次):エンド・オブ・ライフとは何か、人にとっての生・死とは何か、多様な療養の場での病と共に生きる人々の生と死について理解する。
内容:死生観、少産多死時代における在宅看とり(高齢者の看とり、在宅介護者への理解)に関する講義の実施と目標達成度評価と精選

(2)専門教育課程
科目名:「エンドオブライフケア看護実践論」(看護学部3~4 年次):エンド・オブ・ライフケアとは何か、またエンド・オブ・ライフケアにおける必要な知識技術を学び看護の役割の重要性について学ぶ。

内容:
①看護師としての死生観、倫理観、人間観、家族観など意識化、看護師の倫理綱領
②病態理解、症状マネジメント
③治療の中止、差し控えに関連する知識・ガイドラインの理解、意思決定支援
④事前指示と代理意思決定について学び、自分の死、身近な人(家族)の死を考える。
⑤他職種連携や地域支援の中での看とり体制の構築における看護師の役割

2)基礎教育課程における授業の評価と改善
(1)上記、2科目の教育目標達成度を設定し、評価を行う。

(2)上記科目の評価に基づいて、授業内容の精練を行う。

【事業実施期間】

2011~2015年各年10月開講~約4ヶ月間 15回

【事業成果】

1)各年度、授業実施・評価・改善に関する実施報告書

2)最終年度、看護学基礎教育における領域横断的な日本版エンド・オブ・ライフケア看護学教育の教材として教科書の刊行

5.大学院教育におけるエンド・オブ・ライフケア看護学の実践・教育・研究の統合

【目的】

エンド・オブ・ライフケアを専門とする看護学教育・研究者を育成する。

【事業内容】

1)大学院教育(博士前期課程)の実施
科目名:
「エンド・オブ・ライフケア看護学」(博士前期課程1~2年次)

内容:
①がん、慢性疾患、難病、エイズ、小児の終末期における看護方法・技術の開発
②医療、老人ケア施設、在宅での看とりシステムの開発・提案
③エンド・オブ・ライフケア看護学に関する継続教育の開発
④上記内容に関する研究方法についての検討

授業展開方法
学生各自が専門とする領域におけるエンド・オブ・ライフケアに関連する概念、研究成果と看護実践について関連づける講義や演習を行う。

2)大学院教育課程における授業の評価と改善
(1)上記、2科目の教育目標達成度を設定し、評価を行う。

(2)上記科目の評価に基づいて、授業内容の精練を行う。

【事業実施期間】

1)2011年度前期に試験的に開講する。

2)2012年度~2015年度は大学院カリキュラムに位置付け開講する。

【事業成果】

1)各年度、授業実施・評価・改善の実施報告書

2)大学院教育における領域横断的な日本版エンド・オブ・ライフケア看護学教育の教材として教科書の刊行

3)本事業の5つの柱の内、3. エンド・オブ・ライフケア看護学研究の推進、4.看護学基礎教育におけるエンド・オブ・ライフケア看護学教育の実施と評価、5.大学院教育におけるエンド・オブ・ライフケア看護学の実践・教育・研究の統合は、相互の関連性から知見を統合して成果として集積する。