乳がん看護認定看護師教育課程の開発プロジェクト

乳がん看護認定看護師教育課程の開発プロジェクト

平成17年度(2005)から平成28年度(2017)まで、看護実践・教育・研究共創センターに乳がん看護認定看護師の教育課程を設置し、カリキュラムの構築、運営、実施、評価を継続し、合計303名の修了生を輩出しました。

現在、全国各地で修了生が乳がん看護認定看護師として活躍しています。

乳がん看護認定看護師教育課程は、当センターに次いで、2機関の教育課程が発足したこと等から、当センターの役割を終えたと判断し、平成28年度をもって、閉講致しました。

開設以来、乳がん看護の質向上に向けて、研修生をはじめ講師、実習施設、事務職員とともに取り組めたことに、心から感謝申し上げます。

※本課程に関する問い合わせ、修了生の方の諸手続き等については、亥鼻地区事務部総務課総務第三係までご連絡ください。

開発し運営した教育プログラムの概要

千葉大学大学院看護学研究院附属看護実践・教育・研究共創センターでは、乳がん看護認定看護師教育課程(以下、本課程)の開発プロジェクト(平成17年度~28年度)に取り組みました。

乳がん患者・家族に対する専門性の高い看護実践が求められているのを背景に、日本がん看護学会が申請母体となって乳がん看護の基準カリキュラムを提案し、2003年に日本看護協会は、「乳がん看護」を認定領域として分野特定をしました。

このプロジェクトは、乳がん看護認定看護師を育成するための教育プログラムの開発と乳がん看護認定看護師の役割の開発・推進が目的です。本課程は、平成17年、千葉大学看護学部附属看護実践・教育・研究共創センターに、当時本邦初にして唯一の乳がん看護認定看護師の教育機関として設置されました。開講した平成17年度から、平成28年度の概要を紹介します。

1)教育理念・教育目的

看護実践・教育・研究共創センターの認定看護師教育課程(以下、本課程)は、特定された認定看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて、水準の高い看護実践のできる認定看護師を社会に送り出すことにより、看護現場における看護ケアの広がりと質の向上を図ることを目的とした理念を掲げている。

また、本課程では、幅広い視野を持ち自立した判断ができ、看護実践を変革向上させていく創造能力を身に着け、かつ以下の3点の特定の認定看護分野の知識・技術を有する者を育成することを目的としている。

(1)特定の看護分野において、個人、家族及び集団に対して熟練した看護技術を用いて水準の高い看護を実践する。
(2)特定の看護分野において、看護実践を通して看護職に対して指導を行う。
(3)特定の看護分野において、看護職に対してコンサルテーションを行う。

2)定員数、教育期間、修了者数

平成17年度から20年度は、10月~3月(6か月)開講でしたが、平成21年度からは7月~12月開講と変更しました。定員も初年度は20名、次年度から3年間は、30名に増員し、教育の質の担保と安定的運営のため、それ以後、25名としてきました。

内容を見る

年度定員(名)教育期間(スケジュール)修了者(名)
平成17年度206か月(平成17年10月~平成18年3月)21
平成18年度306か月(平成18年10月~平成19年3月)30
平成19年度306か月(平成19年10月~平成20年3月)30
平成20年度306か月(平成20年10月~平成21年3月)29
平成21年度256か月(平成21年7月~12月)27
平成22年度256か月(平成22年7月~12月)27
平成23年度256か月(平成23年7月~12月)25
平成24年度256か月(平成24年7月~12月)26
平成25年度256か月(平成25年7月~12月)22
平成26年度256か月(平成26年7月~12月)23
平成27年度256か月(平成27年7月~12月)20
平成28年度256か月(平成28年7月~12月)23

3)教育内容

日本看護協会の基準カリキュラムに沿って、シラバスを作成しました。この協会の基準カリキュラム検討には、本教育課程の教員も関わっています。乳がん看護の実際のニーズに即し、医療提供の変化に合わせたカリキュラム検討が行われます。この基準カリキュラムを運用する時間割作成と講師選定は、各教育課程に委ねられます。実際の運営では、専門基礎科目で、乳がんの診断・治療の知識と対象を理解し支援するための理論を習得したのちに、専門科目の集学的治療を受ける患者への看護と専門的看護技術を習得できるように順序性を考慮しました。共通科目は、学内の教員に講師を依頼しました。専門基礎科目は、乳癌専門医、大学教員に講師を依頼し、専門科目では、がん看護専門看護師、がん関連分野の認定看護師等に講師を依頼しました。授業科目と授業時間数の変化を表にまとめました。

授業科目と時間数の変化を見る

乳がん看護認定看護師教育課程の授業科目と時間数の変化

 平成17年度~20年度平成21年度~25年度平成26年度~28年度
 授業科目授業
時間数
授業科目授業
時間数
授業科目授業
時間数
共通科目看護管理15看護管理15看護管理15
リーダーシップ15リーダーシップ15リーダーシップ15
文献検索・文献購読15文献検索・文献購読15文献検索・文献購読15
情報処理15情報管理15情報管理15
看護倫理15看護倫理15看護倫理15
教育・指導15指導15指導15
コンサルテーション15相談15相談15
対人関係15対人関係15対人関係15
専門
基礎科目
腫瘍学
腫瘍の診断と治療
30腫瘍学
腫瘍の診断と治療
30腫瘍学概論30
臨床倫理15臨床倫理15がん看護学総論130
がん患者・家族の心理過程を理解するための諸理論15がん患者・家族の心理過程を理解するための諸理論15がん看護学総論230
対象の主体的な取り組みを支援するための諸理論と方略45対象の主体的な取り組みを支援するための諸理論と方略30乳がん看護概論15
  社会福祉・社会保障制度15がんの医療サービスと社会的資源15
専門科目乳がん看護概論15乳がん看護概論15集学的治療を受ける乳がん患者の看護45
集学的治療を受ける乳がん患者の看護45集学的治療を受ける乳がん患者の看護45乳がんサバイバーとその家族への心理・社会的支援15
乳がんサバイバーとその家族へのサポート15乳がんサバイバーとその家族へのサポート15乳がん患者の意思決定を支える看護技術15
乳がんの専門的看護技術75乳がんの専門的看護技術75乳がん患者のボディイメージ変容への援助技術15
    乳がん患者のリンパ浮腫の看護技術30
学内演習 30 30 45
臨地実習 225 225 225
必修科目授業時間数 630 630 630

4)プログラムの運営

開講当初から、安定的な運営を課題に、①教員の体制、②事務担当者の体制を検討し、③規程の制定と委員会組織の設置による体制を整えました。また、④学習環境を調整し、⑤運営経費や⑤広報活動を検討しました。運営経費は、選抜料、研修料とし、平成17年度~20年度は、教育プログラムの開発と乳がん看護認定看護師の役割の開発・推進を目的として、ブリストル・マイヤーズスクイブ財団から34万ドルの助成を得ました。さらに、平成26年度~28年度は、認定NPO法人J.POSHから総額150万円の奨学寄付金を得ました。

また、研修生選抜試験方法の検討、科目内容・時期・担当者の検討、臨地実習調整、修了判定の検討、認定審査の支援について常時検討し、工夫を重ねました。特に、本教育課程修了後に日本看護協会が行う認定審査の準備においては、研修生に、修了試験の成績を伝え、自己の学習上の課題を明確にするよう促しました。さらに、修了後は、自施設の医師や看護管理者の協力を得て学習環境を整えることや、近隣の研修生同士で学習を深めることを促しました。

5)個別学習支援(自己学習課題・個別面談、個別指導、学会等の紹介)

6か月間の開講期間を効果的な学習期間にできるよう研修開始前の自己学習課題を掲示しました。

また、個別面談を入学時、臨地実習前、修了前と適宜行いました。研修期間中は、学習環境の調整や学習課題の達成状況の確認、学習支援ニーズの把握と学習方法について助言し、修了前は、認定審査の取組方法の確認と助言をしたり、将来の認定看護師としての実践を視野に入れて自施設の看護管理者や認定・専門看護師との連携・協働について相談に応じました。

さらに、総合演習という科目は、事例検討、看護過程展開演習、看護職集団への教育・指導に関する演習、事例報告会等で構成されています。教員は、研修生に看護実践における根拠の意識化と実践の振返りと評価を通じて、自己の学習課題の明確化を図りました。また、理論やエビデンスを活用して、目的的に演習に取り組めるよう支援を行いました。

臨地実習では、原則として1施設に研修生2名を配置しました。研修性には、ポートフォリオ作成をとおして、臨床実践経験や実践内容を振り返り実習での学習課題を明確にするように指導しました。実習開始前のおよそ1か月前に、研修生と実習担当教員で実習施設に出向き、事前打ち合わせを実施しました。実習開始後は、教員と実習指導者が連携をとって、実習要項に沿って実習を進めました。また、教員は、実習記録の指導を行い、研修生の進捗に応じて実習方法を助言しました。

加えて、研修生に、日本がん看護学会、日本乳がん看護研究会、日本乳癌学会について、活動の目的や内容、学術集会への参加方法を紹介しました。さらに、乳がんにかかわるセミナーの開催情報などを伝え、参加を促しました。

6)修了生へのフォロー

修了生へのフォローとして平成18年度~平成21年度は、本課程が主催してブラッシュアップセミナーを実施しました。平成22年度以降は、修了生と教員が中心となって日本乳がん看護研究会が主催して実施しています。

また、各年度の修了生の中から連絡担当者を1名決めてもらい、連絡担当者同士のネットワークの構築を勧めました。また、教員から連絡担当者へ、ブラッシュアップセミナーの情報や認定更新審査の情報、基準カリキュラム改正の情報、各教育課程の研修生募集に関する情報などを提供しました。

7)教育プログラムの評価

教育プログラムの評価については、①アドバイザリーボードによる評価、②日本看護協会による認定確認・認定更新審査、③独立行政法人大学評価・学位授与機構による評価、④外部評価委員会による評価、⑤センター運営委員会ワーキンググループによる評価を受けました。特に、平成19年度に実施された、独立行政法人大学評価・学位授与機構の選択的評価事項に係る評価報告書において、『学部の教育・研究の実績とその社会的な貢献が評価され、ブリストルマイヤーズ財団の助成を受け、平成17 年度から乳がん看護認定看護師教育課程が開設されている。その成果は、最先端の研究・教育活動の成果を市民及び企業・事業者を対象に公開する「千葉大学オープン・リサーチ」で紹介されている。」との評価を得ました。これらを通して、常に、成果や運営上の課題を見直しながら実施しました。

8)教育プログラムの活用・発展

平成21年度および平成26年度に、日本看護協会の基準カリキュラムの改正が行われました。ワーキンググループには、本課程の教員、非常勤講師、修了生が参画し、臨床のニーズに即した教育が含まれるように提言しました。

また、乳がん看護認定看護師の教育課程は、平成25年に静岡県立静岡がんセンター(定員20名)、平成26年に鳥取大学医学部附属病院(定員10名)において開講しました。静岡県立静岡がんセンターの開講時の教員は、本課程での教育経験を有するがん看護専門看護師と、本課程修了の認定看護師であり、本課程で開発した教育プログラムを参考にプログラムが展開されました。また、これらの教育課程でのプログラム実施には、本課程の教員や修了生が非常勤講師として、あるいは、修了生が実習指導者として協力しました。

9)乳がん看護認定看護師の役割の開発・推進のプロジェクト・共同研究

乳がん看護認定看護師の役割の開発や推進のプロジェクトとして、市民公開講座の開催、千葉大学オープン・リサーチによる活動公開等を行いました。

また、乳がん看護認定看護師の活動に関する研究、乳がん看護認定看護師に対する看護管理者の評価に関する研究、術後乳房の補整のケアに関する研究、乳房再建の看護に関する研究、乳がん看護の教育に関する研究を行いました。

10)プロジェクトの成果

本プロジェクトの成果とし、299名が乳がん看護認定看護師資格を取得しました(平成29年7月21日時点)。

また、平成22年度の診療報酬改定では、がん患者カウンセリング料(500点、1回のみ)が掲載されるようになり、乳がん患者・家族を支える認定看護師の役割への期待が高まりました。平成26年度の診療報酬改定では、がん患者指導管理料(Ⅰ:500点、1回のみ、Ⅱ:200点、6回まで)に適用が広がり、乳がん患者・家族への心理的支援に対する役割の発揮が望まれています。

さらに、修了生の社会貢献として、日本がん看護学会の教育・研究活動委員として、日本乳がん看護研究会の世話人として、あるいは、日本乳癌学会の評議員として、学会・研究会活動に参画し、乳がん看護の普及・発展と認定看護師の実践力の向上を図る活動を行っています。また、地域における社会貢献として、日本各地で、修了生らによるBreast Care Nursing研究会が設立され、地域における乳がん看護の質の向上を目指す教育活動を行っています。

研究会一覧を見る

Breast Care Nursing研究会一覧

  • 北海道 Breast Care Nursing研究会
  • 秋田乳がん看護セミナー
  • 南東北BCNネットワーク
  • 栃木ブレストケアナース研究会
  • 埼玉Breast Care Nursing研究会
  • 千葉Breast Care Nursing研究会
  • 東京Breast Care Nursing研究会
  • 横浜ブレストケア研究会
  • 関西BCN研究会
  • TOYAMA.BCNサポートチーム
  • 福岡Breast Care Nursing研究会
  • 熊本Breast Care Nursing研究会
  • 長崎Breast Care Nursing研究会

このほか、修了生・教員が参画した乳がん看護に関する教材開発は、2種類のWeb配信と、13冊の書籍として公開されています。

書籍一覧を見る

  • 射場典子ら(監):乳がん患者へのトータルアプローチ.ピラールプレス,2005.
  • 阿部恭子,矢形寛(編):Nursing Mook38 乳がん患者ケアガイド.学習研究社,2006.
  • 阿部恭子(編):ブレストケアナース.日総研出版,2006.
  • 佐伯俊昭(編):乳がん標準化学療法の実際.金原出版株式会社,2006.
  • 中村清吾・金井久子(編):ガイドラインに基づく乳がんケアQ&A チーム医療のために.総合医学社,2009.
  • 阿部恭子(編):乳がん看護 困った!にこたえるサポートブック.メディカ出版,2010.
  • 日本乳癌学会(編):乳腺腫瘍学,金原出版株式会社,2012.
  • 増島麻里子(編):病棟・外来から始めるリンパ浮腫予防指導.医学書院,2012.
  • 阿部恭子・矢形寛(編):乳がん患者ケア,学研,2013.
  • 日本がんリハビリテーション研究会(編):がんのリハビリテーションベストプラクティス,金原出版株式会社,2015.
  • 日本乳癌学会(編):乳腺腫瘍学 第2版,金原出版株式会社,2016.
  • 青儀健二郎,飯野京子(監):がん患者の「知りたい」がわかる本 日常生活の安心を支援するQ&A,じほう,2016.
  • 阿部恭子・矢形寛(編):乳がん患者ケアパーフェクトブック,学研,2017.